ペルーとチリとの三国間の国境が近い、ボリビアのアルティプラノ(高原)の村に泊りがけで出かけていた。バスは週に2便しかなくて、この現代にこの便数はかなり少ない。
年をとったお母さんのもとに子供全員が集まるという機会だったので、寝る場所が足りなくて、車の中で寝ていた私は凍てつくような寒さで目を覚ました。すると隣で寝ていた人が「お前もか」と言い、二人で笑った。
満天の星空の中で、車のフロントガラスから正面に、ひときわ大きな星がひとつ見える。これはuru uru(ウル・ウル)と呼ばれる星だそうで、午前4時に昇り始めるのだそうだ。この星が見えると、農村では一日の作業が始まる、大切な星なのだそうだ。方角は南の方に見えて、昇っていく。
そして次に、耳をよく澄ますと、遠くで鳥が鳴いているのが聴こえる。これはphuku phuku(プク・プク、「プ」は帯気音)と呼ばれる鳥で、5時になるとこの鳥が鳴き始めるらしい。確かにそうだった。問題は、鳴き声がphuku phukuと聞こえるらしいのだが、私にはどうしても「ホケホケ」と泣いているように聞こえる。何語でもそうだけれど、アイマラ語の聞きなしも難しいなあ。
するともう一つ鳥が鳴いている。これは僕も知っているliq'i liq'i(レケ・レケ、「ケ」は破裂音)という鳥だ。この鳥の鳴き声は確かにliq'i liq'iと鳴いているように聞こえる。今回新しく隣の人に教えてもらったのは、liq'i liq'iが鳴いているときは、人とか犬とか狐とかが傍を通っているのだそうだ。それを知らせてくれるのが、あの鳥の役割なのだと。
そこで分かったのは、アイマラ語の口承文学には、家畜(荷物を運ぶリャマ)を盗まれた旅人にliq'i liq'iが姿を変えた若者が泥棒の在り処を教えるという話があるのだが、ここで出てくるのが何故liq'i liq'iでないといけないのかが、これを聞いて初めて納得できた。知らせてくれるんだな。
「うちの母さんは読み書きは全く出来ないけれど、様々な自然の徴候の読み方を知ってるんだよ」とその人が私に言う。極寒の中で豊かな夜明け前のひと時だった。
PS 今回出かけていた地域はリャマしかいないと言われていたのだが、確かにそうで、そしてそれはこの場所は雨がほとんど降らないからなのだった。雨は1月と2月だけに集中的に降り、その期間は川が渡れなくなって、村が孤絶し、電気も来ない、若者が殆どいなくなってしまった地域なのだ。この境い目になっているのはペルーとの国境から流れてくるデサグアデロ(Desaguadero)川で、この川を越すと途端に雨が降らなくなるのだそうだ。アンデスではちょっとの距離差で気候が全然変わってくる、いわゆるミクロクリマ(microclima)というのが大事だというのはよく言われるのだが、高原部(アルティプラノ、altiplano)でもここまで違うというのは、新たな驚きだった。
しかしそうであればそれなりの楽しみはあって、リャマを解体してワティヤ(wathiya)という地中で石で焼く料理をご馳走になった。もう石と土で焼かれた肉や芋の美味しさは格別だ。次の日にはリャマ・スープを作る。リャマの骨からでる出汁の旨味は、羊ともだいぶ違って、またなんともいえない美味しさだった。
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