アンデス地域において、特に先住民言語との二言語話者の人々が用いるスペイン語を「アンデス・スペイン語(castellano andino)」と呼ぶ。その特徴は、先住民言語の話者では既にない人々にも共有されている。さらに、より広い階層の人々のスペイン語まで含めてこの呼称を用いることもあるが、ここでは前者の狭い意味で基本的に使うことにする。
そのアンデス・スペイン語がもつ独特さに、前から注意を払うようにはしていたつもりではあったのだが、やはり自分は甘かったなと再認識する思いで、幾つかメモを書いておく。
(1)点過去に比べて現在完了が遥かに多く使われる。
この点はスペイン語とスペイン語教育界ではそれほど知られていないことで、かつ点過去と現在完了の関係の地域的差異はスペイン語学全般における大問題なので、大分早い段階から自分でも意識していた。しかしこれは、特にアンデス・スペイン語でなぜそうなるのか、という問題でもある。そして、ごくたまに点過去が使われることはあって、それがどういう場面なのかが問題でもある。
(相手が現在完了で話したことを追認して繰り返すときに点過去を使う、というのが一つあるような気がするが、それもまだ要確認事項に留まっている。)
(2)線過去の使用頻度が高い。
そもそも線過去の特徴づけはスペイン語学の中でも難しい話題で、たとえば「叙述の線過去」の位置づけに私は多大な関心がある。線過去と点過去はアスペクト(ある動作のどの側面を切り取るか)に着目して定義されることが多いが、そうもそこに入りきらないように思うからだ。
アイマラ語圏のアンデス・スペイン語では、自分が直接体験した過去を示すremoto cercanoに対応するものとして、線過去の位置づけが与えられている。ただし、アイマラ語圏(ラパス、エルアルト)とケチュア語圏(クスコ)を問わず、過去の出来事を物語る際に、線過去が頻繁に用いられる。そもそもケチュア語の過去の接尾辞と、アイマラ語のremoto cercanoがどの程度対応するのかが、まずは検討されていない問題で、その上でケチュア語圏での線過去の使われ方とアイマラ語圏での線過去の使われ方が似ているか、も同じく重要な問題だ。
上のことは、まず最初に、アイマラ語の文書をスペイン語に翻訳する作業を、アイマラ語の母語話者の人と共有する中で気づかされていった面があり、またここし
ばらくで日常会話のアイマラ語にもう少し丁寧に着目しようと思う中で、スペイン語について同時に意識するようになってきたことでもある。
文法による世界の組み立てに注意を払わなくてもコミュニケーションは成立してしまう。でもそれは、何かが狭間にボロボロとこぼれ落ちていくコミュニケーションだ。
そして、生活と言語は切り離せないとするなら、生活の一つの重要な部分を、私は自分の関わる家族たちと共有していなかったことにもなる。
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