今年(2019年)の3月に銀色線(línea plateada)が開通して、ボリビアのラ・パス市の新しい公共交通システムであるテレフェリコ(ロープ―ウェイ)の路線網の整備が完了した。
エル・アルト市のラ・パス市とのへりを通っていく銀色線は、鉄道中央駅から中央墓地を通り7月16日市場をつなぐ赤色線、ラ・パス市の中心に近いオベリスコからファロ・ムリーリョをつなぐ紫色線、オブラヘスからソポカチを通ってシウダ・サテリテをつなぐ黄色線と、ラ・パス市とエル・アルト市の高低差をつなぐ3つの路線同士をエル・アルト市側で結んでいる。エル・アルト市とラ・パス市のへりを通る路線なので、上からラ・パス市を一望する素晴らしい眺めが続く。
(注)写真は拡大してみたほうが、おそらくきれいに見えます。
反対側を見ると、エル・アルト市からラ・パス市への断崖絶壁に貼りつくようにある建物も見える。上の写真で崖っぷちにあるのは、エル・アルト市のセハ地区の呪術師の市場である。私は最初にここを通った時は、これが呪術師の市場の後ろ側であることを認識しておらず、知り合いに指摘されて初めて気づいた。これは、境界領域に展開する呪術師の知の、地形として極限的な形での現れなのではないかと、深く感じ入った。
(注)アイマラ語では、呪術師は「知っている人(yatiri)」という言葉が当てられます。すなわち、呪術師の知はアイマラの知識人の知だ、ということになります。
今日は、ファロ・ムリーリョで紫色線に乗り換えて、オベリスコに下りて行ったのだが、このテレフェリコは、エル・アルトとラ・パスの街を立体的かつ全体的に感じ取ることを可能にするという意味で、これまで地上をバスで移動していたのとは全く異なる、新たな空間の感覚をもたらしてくれる。周囲の山々や市内の起伏を含めた全体の地形と繋がっている感覚、と言えばよいだろうか。繋がっていると言ってもよいし、自分がそこに包まれていると言ってもよいが、自分がそれを包み支配している感覚とも言えそうだ。
ただし、私が一番注目しているのは、それとはまた少し違う点だ。写真は掲げないが、このテレフェリコは、住宅や建物の真上を突っ切っていく。この街の住宅は、全体を閉ざしてしまうわけではないので、中の部屋の構成や中庭の様子、さらには洗濯をしている様子や女性が髪を洗っている様子などが、上から見えてしまうのだ。その意味で、エル・アルト市やラ・パス市周縁部の住宅は、アンデスの農村の住宅構成をそのまま都市に持ち込んだようなところがある。
アンデスでは、知り合いなどであれば家の中に入って、中庭にある何かしらのベンチのようなものに敷物を敷いて座って話をしてということもあるし、家屋の中に招き入れられることもある。でもここでは、知らない人の私的な生活の空間を、このテレフェリコはあからさまに視線の対象にしてしまう。このテレフェリコは現エボ・モラレス政権の肝いりのプロジェクトであり、すなわち、有無を言わさずに人々の生活空間に侵入していくこの視線は、ボリビア国家の視線でもあるだろう。
新しい観光名所として次第に知られていっているこのテレフェリコは、同時に、ボリビア国家が人々の生活に接触し、浸透していくという、エボ・モラレス政権におけるボリビア社会の変化を最先端で担っている装置でもあるのだ、と私はいま考えている。
(注)このようなボリビアの現状認識については、少し前のエントリーで書いた、ボリビア研究学会での国際大会におけるカルロス・クレスポの発言から、示唆を得ています。
一番早く開通した赤色線では、その下にある住宅が一つの地区で連携して鮮やかな色々に塗って、上空を楽しませようとする試みも行われている。新しい時代の国家の視線に対して、人々はどのようにそれを受け止め、それに対抗していくであろうか。
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