テレフェリコ(teleférico)というのは、要するにロープウェイのことで、ボリビア政府がラ・パス市に導入しつつある交通システムである。エル・アルト市の7月16日市場の入り口からラ・パス市の中央墓地と中央駅を結ぶ最初の「リネア・ロハ(línea roja、赤路線)」が開通したのが、2014年のことだから、まだ4年目のことでしかない。通常ロープウェイというと登山地などのように一箇所にあるものを思い描くが、そうではなくて、市内各所を広域にロープ―ウェイで結ぶ仕組みである。全体が完成すると、全ての路線がネットワークとして互いに結ばれることになる。このような仕組みは、世界でも例がないようだ。
街自体が大きな標高差を内包し、道路での移動が複雑を極め、幹線道路が渋滞しやすい、このラ・パスの街において、テレフェリコは直線的な移動を可能にし、また空中から街を眺めることを可能にする。値段は、従来からの交通手段であるバスに乗る場合に比べて若干高いが、かかる時間は大体の場合にバスよりも速いことが多い。したがって、従来からのバスの乗客が、テレフェリコとバスに二極化していくということが起きている。(もちろん、路線が遥かに多いバスがテレフェリコを補完するという側面も、確実にある。)
ラ・パス市の新たな顔となり、観光客にも大人気のこのテレフェリコ、しかしこれは実にシュールな形態である。
テレフェリコの駅は実に近代的な様式を備えていて、設備が充実していて、バリアフリーが実現されている。設備として例えば、この街にほとんど存在しないエスカレーターがたまにあり、私はこれまでに(バランスを崩すのではないかと思って)怖くてエスカレーターに乗れなくなっている人に、後ろから支えて乗るのを手伝ってあげたことが、何回かある。しかしこれが、それまでと変わらないラ・パスとエル・アルトの街の中に突然出現するわけである。
エル・アルト市では、商人の露店が並ぶある種の1980年代以降のインフォーマル・セクターが急拡大した後のボリビアの典型的な街の情景の上を、高速ロープウェイが通り過ぎていく。横のビルの部屋のなかや、家の上を通るときは、屋上や中庭の様子や干してある洗濯物が丸見えだ。よくこんなところを通せたなと思うようなところを、テレフェリコは進んでいく。
すなわち、このテレフェリコは社会が全体として変わっていく象徴としてあるのでは必ずしもなく、むしろそれまで営まれていた社会に対し、いきなり上乗せされるようにして導入されているのだ。これは、不安定な上乗せによる文化の変容、あるいは文明の多層性ということになるか。ラテンアメリカの文化を議論する際には、異なる時代の要素が折り合いのつくことなく積み重なっている、という考え方をすることが頻繁にあるが、このテレフェリコもまさにこの文明の多層化の典型事例なのではないだろうか、と思いながら、高所恐怖症を何年かかけて克服した私は、今では積極的にテレフェリコに乗ってみるようにしている。
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